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副管理人の行ったコンサート

2000. 4.16

初めて「コンサート」「ライブ」というものに行ったのは
いつのことだっただろう。そうそう、あれは確か二十歳の夏だ。
うちは厳しくて、それまでライブになんか行かせてくれなかったんだ。
でも、あの時から私はライブというものの持っている独特の雰囲気と
その魔力のようなものに恋してしまった。
あれからいくつ、ライブに行っただろう。

そしてそのライブの中に「古内東子」というアーティストのライブも
含まれていた。初めて彼女のライブに行ったのは「恋」のツアーで
高校時代の友達と女2人で見に行った。その頃の私はというと
【誰より好きなのに】をラジオで聴いて彼女のCDを探しまわり
いっぺんに気に入ってアルバムを全部そろえ、さらに新しく出た
【恋】を買った、という状況だった。
私はよく、すごく気に入る曲があるとアルバムまで待って買うことが
ある。その方がそのアーティストの全体が見えるから。
他の曲を聴いてはまってしまうと、それまでのアルバムを全部揃える。
大好きなEARTH,WIND & FIREも、DREAMS COME TRUEもそうだったが
古内東子その人も、やはり同じプロセスを辿って私の中にどんどん
入ってきたのだった。

そんな彼女のライブは、静かで(年齢層が高いせいもあるが)彼女の
楽曲が持っている雰囲気をそのまま醸し出すかのようなライブだった。
【恋】というアルバム自体、私はすごく好きだったからかもしれないが
ひとつひとつの曲に「やられてしまった」という感じだった。
曲順まではもう覚えていないが、例えばこんな感じである。
【悲しいうわさ】の最後のサビの繰り返し♪心の中では♪からの部分の
彼女のファルセットの切なさにやられる、【ブレーキ】で聴かせる
♪かなりハイになってるみたい♪の低音の響きにやられる、
【そして二人は恋をした】の彼女の歌とドラムのリズムの調和に
やられる、といったように。特に【月明かり】は圧巻だった。
声の調子があまり良いとは思えなかったのに♪ありがとう 今まで♪
の部分にすっかりやられてしまったのを、今でも覚えている。

そして、それ以来行けずにいた彼女のライブに4月16日行った。
ライブの雰囲気等は管理人ヒロシ君のライブレポでもわかるけれど
私は私なりに見て聴いて感じたことを書こうと思う。


1曲目は【45分】舞台の袖から出てきた彼女がアカペラで歌い出した。
彼女の歌をアカペラで聴くのは初めてでとても新鮮。
アカペラというのは、歌い手の技量が試されるものだといつも思う。
私も自分で歌詞を書き、曲を作り、歌を歌っているせいもあるのだが
アカペラというのは、実はとても勇気がいることだと思う。
初めて聴いてみて、彼女のアカペラは素敵だった。
楽曲の良さが際立つせいなんだろうか、楽器の演奏がない方がむしろ
純粋に彼女の楽曲の持っている切なさが聞こえる気がした。
1コーラスを歌い終わってその後は幕があいて演奏が加わる。
どうしたって演奏がない状態からある状態へ移行するには
「違う世界」だと思わずにはいられないのに、それでいて妙に
自然だった。多分、彼女の独特の雰囲気がなせる業なんだろう。

2曲目は【はやくいそいで】これが2曲目に来るとは思ってなくて
驚いた。デビュー曲だし、やるとしたらアンコールかな?なんて
勝手に予想していたからだ。CDをレコーディングした頃より
はるかに成長した(と私が言うのは生意気かもしれないが)彼女の
声が気持ち良かった。
続いて3曲目に【Red sign】・・・
実はここ数日ライブ前に最新アルバム【winter star】を聴いていて
この曲がどうも気になっていた。理由はなくて、ただ気になる。
誰にでもそんな時があると思う。自分の状況に重なってもいないし
初めて聴いた時からすごく好きだったわけでもない。
なのに気がつくと妙に気になってしまって1日中頭の中を当然のように
駆け巡ったりする曲が、きっと誰にでもあると思う。
ライブ前2,3日の間私にとって、その曲がこの【Red sign】だった。
サビの部分が好きで、特に♪そうよ私は恋してる今までにはなかったほど
強く♪がこころに残ってしまっていた。

彼女の歌の特徴のひとつに、歌詞の独自性があげられると思う。
初めて彼女の歌詞を読んだのは続いて4曲目に歌ってくれた
【逢いたいから】だった。
中古のCDが並んだお店の中でタイトルにひかれ手にとった
CDのジャケットの裏側に、その言葉たちはあった。
「何これ。まるで話してるみたい。言葉数も多いし、これに
メロディがつくの?」当時既に自分で曲を書いていた私は
そんなふうに思って興味をひかれ、手にとった【逢いたいから】を
買った。それをとても懐かしく思い出した。
上にあげた【Red sign】の歌詞にしても、それは変わっていない。
そんな、あるようでない、独自の歌詞を書ける彼女をあらためて
すごいと思う。特にこの曲は唯一の「男側の感情を歌った歌」だが
男性のファンに大人気であることが彼女の洞察力すらも証明している。

次の曲は【歩き続けよう】すごくうれしかった。
何故ならこの曲は私の今の恋を支えてくれてきたからだ。
この曲順は個人的にはかなり“きた”。
私の彼は多くの男性ファンにもれず【逢いたいから】が好きだ。
それで私は久しぶりに【逢いたいから】をライブで聴いて彼のことを
思い出していたのだ。今回は一緒に来れなかったけれど、次回はきっと
2人で、私の隣りに居たカップルのように手をつないで彼女の歌を
聴けたらいいな・・・そんな願いを込めながら思い出していたのだ。
そこへ【歩き続けよう】だったものだから、大変だった。
すごくうれしくて、でも同時になんだか切なくなった。
もともと、彼と出会う前からこの曲は大好きだった。
ある意味で、理想の恋愛の形だったからだ。彼と出会って恋をして
この曲みたいだね、って言いながら過ごしてきたこの数か月を
いっぺんに思い出した。彼女の歌にはそういう力もあるのだ。
つまり、「あの時のこと」という、それぞれがこころに大事に
置いてある瞬間、瞬間をあっという間に引き出してしまう力である。

そんなふうにひたっていたら【ピアス】のイントロが流れてきた。
私はピアスはあけたことがないから、この歌の気持ちは本当は
わからないけれど、この曲の中にある「感情の色」はわかる気がする。
そうすることでしか「決着」が着けられない終わり方の恋もある。
思い出すきっかけになるもの全部を自分の日常から消してしまいたい
と思う気持ちだったら、私にもわかるからだ。
この曲でも、ライブ独特の匂いを感じることが出来た。
のびのびと歌う彼女を見ていると、楽曲というのはもしかしたら
生で演奏して生で歌って初めてその“本当の威力”を発揮するのかも
しれないと感じる。

7曲目はこのライブの中で1番驚いた瞬間だったと思う。
【Jeans】・・・まさかこの曲をやるとは全然思っていなかった。
個人的には好きな曲だからうれしかったけど、うれしさよりも
驚きが先に来てしまった。こういうところが、いい。
彼女のこういう計らいが、とても好きだ。
8曲目は【返事】この曲は楽曲としてとてもなだらかで、
盛り上がりがあまりはっきりないため、好き嫌いがもしかしたら
分かれるかもしれない。私はというと、もちろん好きだ。
彼女はこの曲をピアノの弾き語りで聴かせてくれたのだが、
歌う前に「電話やファックスやEメールがこれだけ発達しても
手紙というコミュニケーション・ツールは今でも残っているし
これからもやっぱりなくならないと思う」と語っていた。
そんな自分の手で書く「直筆」へのこだわりは、CDの歌詞カードの
1番最後に彼女が書いてくれるメッセージにも表れている。
情景が浮かぶ歌詞を書くのは、実は結構難しい。
私も時々そういうものを書くのだが、そうそう簡単に読む人の想像を
促すものは書けないものである。でも、【返事】は、誰が読んでも
その人なりの「景色」を思い描くことが出来る曲だ。
雨の中、ポストの前で立ち尽くすヒロインを誰もが容易に描ける。
ピアノだけで聴く弾き語りの【返事】は、とても切なく、でも
どこか前向きな雰囲気を私達に伝えてくれた。

ここで彼女いわく「影の名曲・・・って自分で言うのもなんなんです
けどね」のコーナーが始まる。「みなさんの持ってるCDの中に
入ってるかもしれない曲。でも、ちょっと聴き逃しちゃってるかも
しれない曲。そういう曲を聴いてもらいたくて」というMCの後
9曲目の【雨降る東京】が始まる。
この曲もすごく好きで、よく聴いていた曲だ。
【返事】とのつながりを見ると「ん?雨つながり?」なんて思うが
【返事】に比べるとこちらは前向きとは言いがたい。
叶わない恋をしているヒロインの「小さな願い」を歌ったこの曲も
おそらく突然の夕立でヒロインがたまたま持っていたのだろう
折りたたみの傘に肩を寄せて入る2人の映像が目に浮かぶ。
個人的な意見だが、これは「東京」だからいいのだと思う。
東京の持っている独特の雰囲気は、雨によく似合う。
晴れていてもビルの隙間に小さな、四角い空しか見えない東京には
晴れの日より雨の日が似合うと、ずっと思っていた。
満月より、三日月が似合う、そんなイメージもあった。
田舎に行くと晴れの日が、晴れの日だということがその街に映える。
周りに何もないような場所であっても、街がきれいに見える。
空間が広いからものの色が濃く見える気がする。
一方で東京という場所は濡れた、ぼんやりした色彩が似合う。
だから【雨降る東京】は【雨降る東京】でなければならない。
勝手にそんなことを思いながら、いすに座って静かに歌う彼女を
見ていた。

次の曲は【友達に戻れない】これこそ影の名曲だと思う。
・・・などと言っても、私自身もきちんとこの曲を聴くのは
この日が初めてだった。シングル【銀座】のカップリングである
この曲のタイトルにひかれながら、CDを買えずにいたのだ。
これを聴いて「そのうち絶対買わなきゃ」と思ってしまった。
この曲に関しては知らない人も多いと思うので、あえて詳しく
書かないことにしようと思う。それぞれが頭の中でどんな
状況の恋なのかを思い描いて、それで聴いた方が楽しいだろうと
思うからだ。特に印象的な歌詞は♪もう会うのはよそう♪という
部分。みなさんも1度ぜひ聴いてみてほしい1曲。

そして【ずっと一緒に】おそらくここまでの3曲が彼女が
「影の名曲」として紹介したかった曲なのだと思う。
恋愛において、終わってしまってから気づくことというのは
よくある。相手が何を求めて、何を嫌がるのかという、極めて
単純なことが、側にいると分からないこともある。
もしかしたら最初は分かろうとお互いが譲り合うのだけれど
そのうちにそれさえ出来なくなってしまうのかもしれない。
一緒に居たくて、だからこそ傷つけてしまう恋もある。
そんな恋を歌う彼女はとても、とても強い人なのだと思う。
目をそらしたくなること。耳をふさぎたくなること。
そんなことが日常には多くあり、それが自分の失敗だとすれば
余計である。それを真正面から認める強さ。
そんな強さがこの曲にはあるのだ。

12曲目の【キッスの手前】はよく覚えている。
【Distance】というアルバムを買った頃、この曲の切なさが
とても好きだった。手が届く距離にいるのに、つかめない・・・
触れることが出来る距離なのに、相手のこころをつかむことが
出来ないでいる・・・。なんだかそういう恋というのは、
誰でも経験があるものなんじゃないかと思って、そして自分自身の
経験も含めて、この曲のすごさに惹かれていた。
「春らしいアレンジで」と彼女が言って曲名を告げた時
頭の中いっぱいに景色が浮かんだ。まるでドラマの1シーンを
目の前にしているかのように。
♪どうしたら特別になれるの♪この一言でこの歌は出来ている。
それは、新しいアレンジで聴いても同じように響いていた。

次の【いつかきっと】は不思議な歌だった。
時間がたってから、聴くたびに好きになる、そんな曲だった。
そして皮肉にも、この曲を知ったずいぶん後に、これに似た
状況を経験した気がしていた。
女という生き物は、男よりも「感情移入」が上手い。
だからよく泣くんだろうなと日頃から思っていた。
よく「自分のことみたいで」と、その曲が好きな理由を答えるが
歌と100%同じ状況というのは、ごくまれであると思う。
つまり、「重なっている部分」を探しては自分を曲で慰め
何とか前を向く力を歌からもらおうとするのである。
しあわせな歌ならそれはそれで、「でも私の彼はこんな時・・・」
と想像して、それだけで余計しあわせになってしまう。
そういう意味でこの【いつかきっと】は「重なっている部分」を
探すのにいいのだろうと思う。
♪あなたの愛車が今日は磨かれてる♪これは何も車でなくても
いいのだった。例えば彼がいつもよりおしゃれしてるとか、
髪型が気合入ってるとか、そんなことにでも置きかえられるのだ。
♪いつかきっと好きになれるはず あなたが選んだ大事な人だもの♪
このフレーズにうなずいた女性が何人いるだろうか。
きっとそれは、そう思わなければ嫌な感情が湧いてきてしまう
今の自分を負の方向ではなく少しでも前へ進ませようとする
無意識の行動なんだろう。そう思わなければ壊れてしまうから。
そして♪あの頃のように笑って会える♪ようになったら、彼から
卒業できるのだと信じることで頑張れる。

そして【宝物】・・・この曲は私の中でとても意外性の大きい曲だ。
たいてい、こんなタイトルの曲の歌詞は「あなたは宝物」という
内容で、今現在の友人や今現在の恋人のことを歌う歌だからだ。
彼女の書いた【宝物】は違った。もう終わってしまった恋の相手を
♪生まれてきたときから 私が探し続けた宝物だった♪と
歌っている。その意外性だけが今でも私のこころの中に残っている。
新しい恋をしない、などとは言っていないのに別れた恋人のことを
こんなふうに言える女性を私は知らない。
この強さはどこから来るんだろう。歌詞に反比例するかのように
明るくポップなメロディ。それが強さの秘密なんだろうか。
彼女の曲は明るめのメロディの曲も多い。だから、しあわせな歌が
結構あるのかと錯覚してしまうことがある。
メロディだけを聴いているとしあわせそうな曲も、歌詞を聴くと
実は切ない歌、悲しい歌であることがわかる。
この【宝物】はその典型的な例だと思う。笑顔で手を振りながら
この曲を歌う彼女の中に、その強さの原点を見た気がした。

次の曲は、私が彼女に完全にはまってしまったきっかけの曲。
彼女自身が「どんな恋をしていても、どんな状況であっても
もしかしたらこの曲は自分のこととして聴いてもらえるのかも
しれない」と言った【誰より好きなのに】・・・
この曲を初めて聴いたこと等は前に述べたのだが、今でも
やっぱりこの曲の持っている威力は私の中で弱くはなっていない。
この曲のような恋をしていたことがある。
今ではずいぶん昔のことのようだし、ある意味では幻のようだけれど
確かに私はこの手の恋愛をすることが多かったかもしれない。
つかず離れずの距離というのは、楽しくもあり、酷くもろくもある。
「恋人」になってもおかしくないし「友達」に戻ってもおかしくない。
どちらでもない肩書で、ずっと続いていく関係。
私自身は今はしあわせな恋をしているけれど、それでもやっぱり
この曲を聴くと切ない気持ちになる。
彼女が言うように、この曲は恋人がいても胸を打つ歌である。
♪やさしくされると切なくなる 冷たくされると泣きたくなる♪
これは今の私にも当てはまるフレーズだった。
どんなに愛していても、どんなに優しい人でも、24時間365日
優しくいることは不可能。疲れていれば、嫌なことがあれば、
相手に優しく出来ない時だってある。
彼の前で、この曲を歌った時のことを、ぼんやり思い出した。

そして、自分の中で(そしてある心理ゲームでも)自分のテーマ曲の
ようになってしまっている【大丈夫】・・・
私は昔から強がりだった。
寂しくないよ、大丈夫。私にはやるべきことも、やりたいことも
たくさんあるし、友達もいっぱいいるし、あなたに会えなくても平気。
そういう女だったと思う。だからこの曲の意味がよくわかる。
ただし、これは、この曲のヒロインの気持ちは「ただの強がり」では
ない。相手への信頼が根底にあって初めて出来る強がりである。
♪愛されていたい だから 微笑んでいよう♪そう言えるのは
相手の気持ちを信じているから。自分の気持ちを信じているから。
男というのは、心配されたがりなところがある。
だから、多少の嫉妬はうれしがるし、多少の「寂しい」には
笑って反応してくれたりする。けれど、それがだんだん重荷になり
女にとっての愛情が「干渉」に変わってしまう。
女から見るととても不思議な生き物なのだけれど、女はそれを
理解して上手く距離を取らなければならない。
そのために♪強がるしかない♪になるのだ。
そして、この曲のヒロインが素敵なところは自立していること。
♪一人で生きることも出来なくないし きっと気楽だけれど♪
と言い切れる強さがある。自立した大人の女性だからである。
彼がいないと何も出来ない、彼の一言で方向が決まる、そういう
子供ではないということだ。だから、そういう意味でもこの曲は
私にとって憧れの曲であり、もしかしたら1番古内東子という
女性を重ねる曲かもしれない。この曲を歌っている時の彼女は
特にのびのびしているようにいつも感じるからだ。

「最後の曲になりました」彼女の言葉で現実の世界に引き戻される。
これはライブで、当然終わりがあるということ。もうずいぶん長い
時間をこのNHKホールで過ごしていること。それを再確認する。
曲は【星の数ほど】これも現実的で興味深い楽曲である。
恋が終わると女友達のパワーを思い知らされる。
相手を責めてみたり「正解だったんだよ、あんなの」と言って
慰めてくれたり、「どこか遊びに行こうよ」と誘ってくれたり
この曲の通りに動くものである。それがありがたくもあるけれど
同時に次の彼女のことなど♪そんなことまで知りたくないのに♪
ということも言ってくれちゃったりするのだ。
この歌は、恋の歌でもあるけれど女の友情を歌った歌だと
私は勝手に解釈している。彼を本当に好きだったから、星の数ほど
他にいい人はいると思いながらも他の人には惹かれない・・・
そんな歌なんだけれど、実は女同士の恋の終わりのひとつの形を
物語っているのではないだろうかと。
歌い終わって彼女はステージの袖に消えて行った。
何度も手を振って、丁寧におじぎをして、消えて行った。

アンコールを求める拍手が続く中で、ぼんやり考えていた。
こんな、ある意味では「マニアックな」選曲のライブ、
アンコールではいったい何をやるんだろう。
私の頭には、当然自分の大好きな歌が浮かんではいたけれど
アルバム枚数から考えれば期待は出来ない。
第一、最新アルバムの曲だって全部は演奏していないのだ。
期待と、その期待を裏切られた時の覚悟とを両手に持って
私は再び彼女が現れるのを待っていた。

バック・ミュージシャンが次々にステージに集まってくると同時に
客席のほとんどが、再び席を立った。もちろん、私も。
出てきた彼女は「どうも、ありがとう」と言うと、おそらく今後
彼女いわくの「影の名曲」に仲間入りするに違いないこの曲を
届けてくれた。【冬の日】である。
結婚して家を出るヒロインの気持ちを歌った曲。
「冬の日というのは季節という意味だけではなくて、誰にでもある
冬のような時期のことを示しているんです」と雑誌のインタビューで
答えていた彼女。おそらく今は「春の日」にいるだろう彼女。
長い楽曲が多い彼女の作品の中でもひときわ長いこの曲を
しっとりと聴かせてくれた。まるで、全ての人への応援歌みたいに。
♪坂道もまがりくねった道もきっとどこかへ続いているんだと♪と。

「4月です。昨日今日と寒いけれどもう春です。春にぴったりの
曲を、春らしいアレンジで聴いてください」そのMCでどれだけの
観客がピンときたんだろう。少なくとも私は彼女がその次に言う
曲のタイトルはわかっていた。【Peach Melba】・・・
これも明るいメロディに切ない歌詞という典型的な東子色の曲だ。
♪4月の春風に♪というサビの部分で、おそらく私達のほとんどは
今の季節を、春を、4月を自分の中でそれぞれに再確認したことだろう。
それぞれにメロディを小さく口ずさみながら、そして彼女に手を
振りながら、再確認したことだろう。

「この曲は、すごくみなさんの中で人気があって、バラードも
本当にたくさんあるんだけれど、私自身の中でもすごく思い入れのある
曲です」そう言って最後の最後に歌ってくれたのが【星空】だった。
私の中では好きな曲ベスト3に入る曲で、実はライブでもこれが1番
聴きたかった。【誰より好きなのに】を聴きたくて買ったアルバム
【Hourglass】の中で、ひときわ輝いていた曲。
メロディにも歌詞にも何かが宿っているようで、この曲だけリピート
をかけて何度も聴いたこともあった。
♪好き という一言を口にすることで 会えなくなるのならば♪
この歌詞に泣いた女性が何人いるだろう。
この歌詞のヒロインをいじらしいと思った男性が何人いるだろう。
こんな恋をしている人も、していた人も、したことがない人も
この曲から受け取るイメージのようなものは、きっと同じなんだろう。
彼女のゆっくりと言葉を発音する歌い方が私はとても好きだ。
歌詞が聞き取れないような歌い方をするアーティストが増えてきた中で
彼女の歌い方は、聴く人が歌詞を味わう余裕すら与えてくれるからだ。
だからこそ、彼女にはバラードが似合う。

最後にまた手を振って、MCで言っていた「今日で最後かもしれないライブ」
を終えた彼女はステージから消えて行った。
客席には、それぞれが吐くため息と、明るく照らす客席用ライトと、
それからぼんやりとした、幻のような空間だけが残った。
「今度彼女に会えるのは、いつだろう」誰もがそう考えていたと思う。
終わったばかりなのに、次をもう考えている。楽しみにしている。
そして、そうすることを許されたようなライブだった。
ライブには独特の魔力がある。そして古内東子、その人自身にも。
次に彼女に会えるのが、今から楽しみだ。

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